世界王

王監督胴上げ

日本が優勝するとは思わなかった、WBC
監督を務めた王貞治は、僕ら80年代の小中学時代に野球をやってきたみんなのヒーローで、世界一のホームランバッターであった。けれども、今だから感じられることだが、活躍の場は日本の中だけでの話だった。ボクの出身柄、王や長嶋が打って勝った日に欲しいものをねだるのが日常であったわけで、そんな意味でも毎日プロ野球ペナントレースに注目し、他のチームのファンだなんて言うヤツはシカトされたものだった。ボクは運動神経が良いわけではなく、たまたま草野球で遊んでいた友人達に誘われて小学校の野球部に入り、たまたま左利きだったというだけでピッチャーになり、こいつで良いじゃんというだけでたまたまキャプテンになり、自分よりうまい奴らをどんな打順にするかばかり考えていた。練習も、編成もがんばった。学校で初めて県大会に出場した。でも、自分をメンバーに加える事は少なかった。自分よりうまいヤツばかりだったし、自分に自信もなかった。その頃ちょうど王貞治は監督だった。世界一のホームランバッターが、狭い日本の一球団を率い、狭い日本のリーグのAクラスを驀進していく。だがしかし、その姿もやはりヒーローであった。その彼がホームランバッターであった現役引退から25年経って、あの頃では考えられなかった統一日本チームで臨む、世界初の野球のワールドカップで、今度は世界一の監督として結果を残した。イチローはすごいプレイヤーでメンバーを統率した。松坂もすごいピッチングだった。世界一に貢献した選手達は皆、素晴らしい活躍だった。だけどやっぱり、王貞治はなるべくしてなった、世界一の監督だった。過去にはプレーの王であり、後には采配の王であった。この大会に向ける彼らの言葉の中で、興味深い言葉がある。大会中、「自分達の為だけではない、『今後の日本の野球の為にも』WBCは意味のある大会なんだ。(超意訳)」と王貞治が語ったことに対して、優勝後、イチローはあるインタビュアーにこう答えた。「いやー、それは王監督だからこそ言える言葉だよね。僕たちはそういった王監督の品位ある姿勢に今後も学んでいかなければいけないんだと思っています。(超意訳)」と。高尚な想いとそれに応える尊敬の想い。その結果成し得た優勝は、僕たちの記憶に、世界の歴史に、深く、深く、刻まれる。